■カジキはティーザーに寄るか?
■カジキのビルは巨大な感覚器官
■バードとティーザー
■ルアーとティーザーの本質的な違い
■ティーザーとルアーの位置関係の重要性
■ティーザーやバードのもう一つの重要な役割
■単体のバードとチェーンバードの違い
■ティーザーの選択
■ビッグルアーでティーザー&ヒット
■いろいろなティーザーを使いこなす
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ティーザーは、カジキがルアーにヒットするように曳いてください。
“カジキがルアーに寄ってくるのと同じように、カジキはティーザーに寄ってくる”
広い海の中で、ベイト(餌)に似た目立つ存在があれば、カジキは興味を持って寄ってくると思われます。カジキは数マイル先の音にも反応すると言われています。ある意味で、最大のティーザーはボートそのものだと言えるかもしれません。
周りに誰もいない海でルアーを曳き始めると、セッティングの最中にもカジキがヒットしてくることがあります。それは、その海域に入ってきたボートを素早く察知したカジキが、いち早く興味を持ってボートに寄ってきているからだと思えます。ただしカジキにとって、巨大なボートは興味の対象ではあってもベイトだとは思っていないはずです。
ボートと同様の巨大な存在といえばクジラだったり漂流物だったりしますが、クジラや漂流物には往々にしてカツオがついたり仔魚がついたりするので、ボートはベイトの存在を示唆する浮遊物とカジキは認識しているのかもしれません。
カジキは数マイル先のナブラを感知して回遊するといわれています。
海鳥は10マイル先のイワシのナブラを見つけているようです。目のいい漁師さんも数マイル先のナブラを見つけてカツオを追いかけます。それから考えてもカジキが10マイル先のナブラの音を感知するとしてもなんの不思議もありません。
一般的に魚は体の横にある側線という器官で水中の音(波動)を感知しているようですが、カジキの側線の後半部分は体内に埋まっていてあまり役に立ちそうではありません。しかしカジキのビルの中にはかなり先端まで太い神経が2本通っていて、巨大な感覚器官になっています。
ビルの形状もラッパ型になっていて、小さな音を増幅しやすい形状になっています。その増幅した音を神経でとらえ、また頭蓋骨と一体になったビルは、その振動が直接脳に刺激を与えるような構造になっています。
また光の届かない海中深く暗躍するメカジキは、さらに大きな感覚器官を必要とするため全長の半分近くもある巨大なビルを持つようになったのかもしれません。
すさみの漁師さんは、フネに揚げたカジキを締めるときは、ビルの先端にウエスをかぶせて木槌で3回、ゴンゴンゴンと杭を打つように軽く叩いて終わりです。
カジキの頭がボロボロになるくらいバットで叩いても、固い頭蓋骨に守られていてあまりダメージはないそうですが、ビルの先端を叩けば簡単に締めることができるそうです。
カジキのビルは簡単に脳震盪を起こすほど敏感な器官なのです。ランディング時にはビルをつかんだら、バットでビルの付け根を叩くのが良さそうです。
ティーザーにはボートのクリートやアウトリガーなどから、ロープで直接ティーザーのみを曳くタイプと、ラインとルアーリーダーの間に付けて曳くタイプの2種類があります。
ルアーを曳くティーザーはヒコーキに似たバードタイプが多く、小型のバードを複数連ねたのがチェーンバードです。
ロープで曳くタイプにも1本曳いたり、複数をまとめて曳いたりと、さまざまなティーザーがあります。海外ではロープでティーザーのみを曳くことが多く、バードでルアーを曳くことは稀です。
日本では伝統的に木製のヒコーキやラビット等でルアーを曳くケンケン漁法が定着していて、カジキにもバードやヒコーキでルアーを曳く釣法が定着しています。
ルアーは動きの大きなタイプであっても、カジキがヒットしやすい動きのパターン(静的状態)も持つように作られています。しかしティーザーは、カジキを寄せる音(波動)を出す大きな動きだけあればいいわけです。
そこが大きな違いです。
しかし、往々にしてティーザーにカジキがヒットしてくるようですが、それは“どこかが間違っている”と考えたほうが良さそうです。カジキのヒットはフックのついたルアーに起きなければまったく意味がないからです。
あるとき、トローリング中に5連のチェーンバードをボートのクリートからロープでティーザーとして曳きました。カジキの気配のある潮目を流していると、突然ボートのどこかで「バッツン!」と何かが切れる音がしました。
アウトリガーのクリップが外れたのかと周囲を見渡しても何の変化もありません。午後になって、また同じように「バッツン!」と何かが切れる音がしました。
あとで見たら5連のバードが2本なくなって3連になっていました。バードにカジキがヒットして150号のナイロンラインを食いちぎっていく音が「バッツン!」だったのです。それが2回も続けて起きました。
翌日作りなおして再度5連にして流したら、また「バッツン!」と、ティーザーにばかり連続3ヒットです。悔しくて帰ってから5連のバードの最後尾に10/0のフックを付けてみました。これを曳いたらこのティーザーにカジキがヒットしてキャッチできるかもしれません。でもそのフック付のティーザーは流すこともなく、部屋からも持ち出すこともありませんでした。なにか違和感を覚えたからです。
このシーズンはティーザーを考える年になりました。
5連のチェーンバードを曳いていると、オキサワラは3番目、4番目のバードにアタックしてきて真ん中から持っていきますが、カジキのアタックは最後尾のバードに集中してアタックしてくることが分かりました。
チェーンバードだったから分かったことですが、カジキは“暴君”オキサワラと違って、なかなか紳士的な習性を持っています。バードの後ろにルアーを曳くことはただの順序と言うだけでは無かったようです。
前述のように、ティーザーの後方にカジキのヒットポイントが生まれるようですが、もしそこにルアーがなかったらやはりティーザーの本体最後部にカジキがヒットしてくると考えられます。
ここからは推測ですが、漁師さんのヒコーキにもよくカジキがヒットしてきます。漁師さんはルアーリーダーが8~15mと長く、バードのすぐ後ろにはルアーがありません。
プレジャー艇では一般的にリーダーは4.5mくらいですからルアーがティーザーのすぐ後方にあると言えるかもしれません。プレジャー艇であってもルアーリーダーが長いとバードにヒットしやすくなる傾向があるのかもしれません。
それから推測すると、ロープで曳くティーザーのすぐ後方の適所にルアーがあるかないかでティーザーの有効性が変わってしまうように思えます。
コーナーショートのルアーや、コーナーロングのルアーのすぐ手前に、ティーザーをロープで曳けば、カジキはティーザーにヒットしてこないでルアーにヒットするようになりそうです。
またチェーンバードのすぐ後ろにルアーを曳く場合は、ルアーの動きはあまり関係ないかもしれません。なぜならカジキがヒットしてきたチェーンバードの最後尾のバードはいつもひっくりかえったり、飛び跳ねたりして暴れていることが多いからです。ルアーのようにきれいに泳いでいるわけではありません。
チェーンバードで活性の高くなったカジキは何にでも飛びついてくると思ってもいいかもしれません。
ティーザーは海の中でカジキにルアーの存在をアピールする役割の他に、もうひとつの重要な役割があります。喰い気のないカジキの活性を高くして喰い気を誘う役割です。
たとえば青物のジギングでも、一人でルアーをしゃくっていては魚の群れの活性は上がってきませんが、多人数でジグをしゃくると喰い気のない魚の活性を高くすることができます。それゆえジギングは、多人数で釣る遊漁船が魚場に入ると魚の群れの活性が上がり、遊漁船だけ爆釣することが多くなります。
カツオやマグロも同様で、誘い出しというぐらいで、キャスティングルアーを打ち込むのが多ければ多いほど活性が上がるといいます。多くのルアーを流しながら、バードやティーザーをいくつも流すことで、喰い気のないカジキの活性を上げて喰い気を誘う重要な役割も担っているようです。
最も大きな違いは、単体のバードやヒコーキは大きめのサイズが多く、バードがルアーリーダーの支点になってルアーの動きを抑えることが多いようです。
それに比べて小型のチェーンバードは、最後尾のバードがルアーリーダーの支点にならずにルアーに曳かれて動くので、ルアーの動きを抑えにくいようです。
つまり大きめのバードやヒコーキはルアーリーダーを長くしないとルアーの動きが損なわれますが、小型のチェーンバードはルアーリーダーが短くても比較的ルアーの動きを損ないにくいのが特徴です。
“複数のティーザーを使うときは同じものを流す”という定石があります。
同じ種類の魚の群れを演出するという意味では大変理解しやすいことです。その考えの延長では、曳くルアーと似通ったサイズのティーザーを使うことは大きな意味があるように思えます。大きなルアーには大きなティーザーやバードを、小型ルアーには小型のバードやティーザーを使うことがいいようです。
5連や3連のチェーンバードは9号以下のルアー、大きなファイヤーバードラトルでは10号サイズのルアーに合うだろうと思います。
カツオを釣るときは、チェーンバードでカツオルアーを曳いた方がいいように感じます。
実釣では大きなルアーを小さなティーザーで曳くとティーザーが動いてくれませんし、大きなティザーで小さなカツオルアーを流すとティザーが不安定になります。
それ以前に、カツオサイズのファイヤーバードラトルを付けてカツオを釣っても楽しくなさそうです。突き詰めていけば、サイズだけでなくティーザーのカラーも、動きも、形も含めて、曳きたいルアーに似たティーザーを選ぶのが良さそうですが、そこまで突き詰めなくてもカジキは釣れています。
最近は大型ルアーのヒットが増えています。それは大型ルアーを使うボートが増えたからです。トップガンの14インチサイズが紹介されるまでは、国内ではそんなに大きなルアーを曳くボートは少なく、こんな大きなルアーじゃカジキは釣れない、とまで酷評されていた時期もありました。
貝や角を削ってルアーを作ることが多かった日本では、大きなルアーを作るのには限界があったので、大型ルアーは未知の世界だったのかもしれません。海外のチャーターボートで勉強してきた日本のボートキャプテンでさえ、16インチのBCビーストを見て、「これはティーザーですよね?」と評しました。
しかしその日のうちに16インチのビーストにヒットしたときは、ため息をつきながら「先入観を持っちゃいけないですね」と呟いていました。16インチサイズのルアーになるとルアーがあげるスプレー(水の飛沫)もスモーク(泡)も大迫力です。それに大きな動きが加わり、まるでカツオが逃げ回っているかのようです。
それだけカジキを寄せる波動も強いはずです。
ルアーはカジキを寄せるだけでなく、カジキがヒットしやすいスティル(静止)するタイミングも併せ持っていますから、フックアップだって悪くありません。
大迫力でカジキを寄せて釣る。それが大型16インチルアーの魅力ですが、ビースト16を曳き始めたキャプテンには「ビーストを曳かないと釣れる気がしない」とよく言われます。
いずれのティーザーも、カジキを寄せてルアーに喰わせるために曳きます。
たとえば1艇でルアーを20本流すことができれば、ルアーだけで充分なティーザーとなりえるはずです。
また、ルアーを1本しか流さなくても充分なティーザーを適切に曳けば5本のルアーを流しているのと同じようにカジキを寄せる魅力を持つはずです。
べた凪の広い海域に1艇しかいない場合では、2~3本のルアーだけでも充分なティーザーとなりえるでしょうし、同じ海域に20艇も30艇も入っているトーナメントの時のような場合では、他艇より多くのルアーやティーザーを流すことで、他艇より優位に立つという相対的なテクニックもあるでしょう。
最近は電子音でカジキを寄せるティーザーも流通しています。カジキのビルの中には神経が2本通っていて音や振動を感知していると思われますが、感覚器官のビルが共振する波長を発生させているのかもしれません。アナログ的なティーザーと比べての効果のほどはこれから実証されていくでしょう。
ティーザーそれ自身、またティーザーとルアーの関係は微妙な関係にあり、さまざまな文献やテクニックを調べてもカジキのことが分からないのと同様に、これらの関係は分からないことが多いものです。
ただ、ティーザーはルアーと同じように、あるいはそれ以上カジキを寄せる効果があるように考えて作られています。バードやティーザーを流すうえで、その役割や特性を知っておくことで、状況に応じた適正なティーザーを使いこなしてください。